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福岡高等裁判所 平成9年(行コ)6号 判決 1998年5月28日

控訴人

上村利矩

右訴訟代理人弁護士

舞田邦彦

被控訴人

蒲原進二

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

園田昭人

奥村惠一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

第二  事案の概要

本件は、熊本県鹿本郡植木町(以下「町」という。)の住民である被控訴人らが、町長であった控訴人に対し、違法な町有地の交換により町に損害を与えたとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号に基づき、町に代位して、不法行為を理由とする損害賠償を求めた事案である。被控訴人らは、右交換に関する町有地の所有権移転と交換差金の支出が違法であるとして、交換差金の額(九六一万六二七〇円)を含む、適正な評価額との差額合計六五四六万円の損害金と、これに対する本訴状送達日の翌日である平成五年一月二七日から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を、町に支払うよう求めた。原審は、町有地の所有権移転による損害賠償請求に係る訴えは監査請求の期間を徒過して不適法であるとして却下したが、交換差金の支出による損害賠償請求を(右の附帯請求を含め)認容したので、控訴人がこれを不服として本件控訴をした。したがって、当審における審判の対象は、交換差金の支出による損害賠償の請求である。

一  基礎となる事実

1  被控訴人らは町の住民であり、控訴人は平成元年九月から平成五年二月まで町長であった。(争いがない)

2  控訴人は、町道植木・古閑線(以下「町道」という。)の、国道三号線との取付部分に拡幅用道路用地を取得するため、平成三年七月二〇日、町長として、次のとおりの各交換仮契約(これを合計すると、町が交換によって取得する土地(以下「取得地」という。)は783.38平方メートル、町が交換に供する土地(以下「提供地」という。)は1576.32平方メートル、町が支払う交換差金は二四六九万〇五六五円となる。)を締結した(以下、右各交換仮契約を総称するときは「本件各交換契約」という。)なお、町道付近の状況は別紙図面(1)のとおりである。)。

(甲一ないし一〇、一四、一五、二〇、二五、三四、乙一の1、2、二の1、三の1、四、一三)

(一) 右田トシコとの間の左記内容の交換仮契約(以下「本件交換契約A」という。なお、関係土地の位置関係は別紙図面(2)のとおりであって、同図面及び後記の別紙図面(3)ないし(6)中、赤色の部分は取得地で、黄色の部分は提供地である。)

① 取得地(合計167.95平方メートル)

右田トシコ所有の鹿本郡植木町大字岩野字花立二二七番一(以下「旧二二七番一」という。)のうち124.56平方メートル(後記3の議決後、二二七番五として分筆)、同字二二八番一(以下「旧二二八番一」という。)のうち41.38平方メートル(同じく、二二八番三として分筆)、及び同字二三二番三(以下「旧二三二番三」という。)のうち2.01平方メートル(同じく、二三二番七として分筆)

価格は合計一三八七万二六七〇円とする。

② 提供地

町有の同町大字岩野字花立二三八番一(以下「旧二三八番一」という。)のうち317.58平方メートル(同じく、二三八番八として分筆)

価格は九五二万七四〇〇円とする。

③ 交換差金

四三四万五二七〇円

(二) 友枝佑二及び友枝孝介(以下、両名を併せて「友枝ら」という。)との間の左記内容の交換仮契約(以下「本件交換契約B」という。)なお、関係土地の位置関係は別紙図面(3)のとおりである。)

① 取得地

友枝ら共有の同町大字植木字東古屋敷一三四番四(以下「旧一三四番四」という。)のうち134.80平方メートル(後記3の議決後、一三四番八として分筆)

価格は一七一五万六四〇〇円とする。

② 提供地

町有の旧二三八番一のうち396.18平方メートル(同じく、二三八番九として分筆)

価格は一一八八万五四〇〇円とする。

③ 交換差金

五二七万一〇〇〇円

(三) 右田トシコとの間の左記内容の交換仮契約(関係土地の位置関係は別紙図面(4)のとおりである。)

① 取得地

右田トシコ所有の旧二二七番一のうち170.40平方メートル(後記3の議決後、二二七番四として分筆)

② 提供地

町有の旧二三八番一のうち468.84平方メートル(同じく、二三八番七として分筆)

(四) 株式会社植木ボーリングセンターとの間の左記内容の交換仮契約(関係土地の位置関係は別紙図面(5)のとおりである。)

① 取得地(合計229.03平方メートル)

株式会社植木ボーリングセンター所有の同町大字植木字東古屋敷一三四番一のうち158.15平方メートル、及び同町大字岩野字花立二二七番三のうち70.88平方メートル

② 提供地

前記(三)の交換で町が取得する旧二二七番一のうち170.40平方メートル

③ 交換差金

一五〇七万四二九五円

(五) 右田トシコ及び右田弘行との間の左記内容の交換仮契約(関係土地の位置関係は別紙図面(6)のとおりである。)

① 取得地

右田トシコ及び右田弘行共有の同町岩野字花立二三二番一のうち81.20平方メートル(後記3の議決後、二三二番六として分筆)

② 提供地

町有の旧二三八番一のうち223.32平方メートル(同じく、二三八番六として分筆)

3  本件各交換契約については、平成三年七月二二日、町議会の議決(以下「本件議決」という。)がなされた。(争いがない)

4  控訴人は、平成三年一〇月四日までに、本件各交換契約に従って、提供地の引渡しと所有権移転登記手続を行い、同月三一日には、交換差金の支出を命じて(以下、本件交換契約Aに関する交換差金の支出命令を「本件支出命令A」といい、本件交換契約Bに関する交換差金の支出命令を「本件支出命令B」という。)、合計九六一万六二七〇円の公金の支出がなされた。(争いがない)

5  被控訴人らは、平成四年一〇月二九日、町監査委員に対し、控訴人に対する本件交換契約A、B及び前記2・(五)の交換による土地所有権移転と交換差金の支出についての損害賠償を求めて監査請求をしたが、町監査委員は、同年一二月二三日、特別の措置をとらない旨を被控訴人らに通知した。(争いがない)

6  町においては、「財産の交換、譲渡、無償貸与等に関する条例」(昭和三九年三月二七日条例一〇号。以下「町条例」という。)が制定されており、その二条は以下のとおり規定している。(甲一六、乙七)

一項 普通財産は、次の各号の一に該当するときは、これを他の同一種類の財産と交換することができる。ただし、価格の差が、その高価なものの価格の六分の一をこえるときは、この限りでない。

一  本町において公用又は公共用に供するため他人の所有する財産を必要とするとき。

二  国又は他の地方公共団体その他公共団体において、公用又は公共用に供するため、町の普通財産を必要とするとき。

二項 前項の規定により交換する場合において、その価格が等しくないときは、その差額を金銭で補足しなければならない。

二  争点

控訴人は、本件支出命令A、Bを行ったことについて、町に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うか。

1  本件支出命令A、Bは違法か。

(一) 本件交換契約A、Bの違法性の承継

(被控訴人らの主張)

(1) 本件交換契約A、Bは、契約自体の評価額によっても、町条例二条一項ただし書に定める「価格の差が、その高価なものの価格の六分の一をこえるとき」に該当するから、町条例に違反している。そして、法二三七条二項が「条例又は議会の議決」による場合でなければ交換してはならないと規定しているのは、条例によって許されない場合には議会の議決を経ればよいと解するのではなく、条例の定めがない場合又は条例で許容されている場合には議会の議決を経ればよいと解すべきである。そうでなければ、議会は条例改正の手続を経ないまま条例に違反する決議をすることが可能となって、条例で禁止した意味がなくなるからである。したがって、本件交換契約A、Bは本件議決の有無にかかわらず違法であって、これに基づいてなされた本件支出命令A、Bも違法である。

(2) 町長である控訴人は、交換契約の締結にあたり、交換の必要性、価格の判断につき一定の裁量権を有するが、その裁量権を逸脱又は濫用して、著しく高額に財産を取得する契約を締結して町に損害を与える場合には、誠実な管理執行義務を定めた法一三八条の二に違反し、その行為は違法となる。本件において、用地交渉の際に明らかになっていた不動産鑑定士西淨隆志による鑑定価格は、①旧二三八番一(町有地)につき四万円/m2、②旧二二七番一、旧二二八番一及び旧二三二番三(右田トシコ所有地)につき四万五三〇〇円/m2、③旧一三四番四(友枝ら共有地)につき六万九八〇〇円/m2であったのに、本件交換契約A、Bでは、①につき三万円/m2、②につき八万二六〇〇円/m2、③につき一二万七二七二円/m2と評価しており、このように、本件交換契約A、Bは、何らの根拠もないのに、取得地を鑑定価格より不当に高額に、提供地を鑑定価格より不当に低額に評価している。したがって、控訴人が裁量権を著しく逸脱又は濫用していることは明らかであるから、本件交換契約A、Bは違法であって、これに基づいてなされた本件支出命令A、Bも違法である。

(控訴人の主張)

(1) 町条例の規制を超える交換契約を締結した場合にも、議会の議決があれば右規制は解除されるから、町条例に違反するからといって、直ちに、本件交換契約A、Bが違法となることはない。

(2) 控訴人は、以下の事情のもとに、本件各交換契約を締結したのであるから、右締結は町長としての裁量権の範囲内にあり、裁量権の逸脱又は濫用はない。

① 本件各交換契約は、町道の拡幅整備のため、道路用地を確保するためのものであった。

② 町役場庁舎は町道沿いに移転することとなっていたところ、その完成が平成三年九月末に予定されていたため、そのときまでに、町道の拡幅整備工事を完了することが必要であった。そのため、同年七月末ころまでには、道路用地を取得する必要があった。

③ 本件各交換契約が締結された平成三年ころは、バブル経済の最盛期で、土地の取引価額は極めて高い実情にあったため、鑑定価格は実勢価格と顕著に異なっていた。しかも、地権者には土地を町に譲渡しなければならない法律上の義務はない上、これを換価しなければならない差し迫った経済的必要性もなかったのに対し、町はこれを是非とも取得しなければならない立場にあった。

④ 本件において土地収用法を適用しなかったのは、次の理由による。すなわち、同法の適用には、一、二年の期間を要するところ、町では、平成三年九月末日に町役場庁舎の完成を控えており、それまでに、同法の適用によって道路用地を取得することは不可能であった。町担当者の知る範囲では、町村の段階で道路改良工事程度で同法を適用した例はなかった。町村段階では地方の特色あるなかで住民との信頼関係をより重視する必要があるし、また、地権者も価格はともかくとして売却には応じる姿勢を示していたから、強制的な収用は適当でなかった。

(3) 仮に本件交換契約A、Bが違法であるとしても、次のとおり、本件支出命令A、Bは右違法性を承継しない。

① 本件議決によって、本件交換契約A、Bの違法性は治癒された。

② 本件交換契約A、Bは、本件議決によって本契約として成立し、私法上の契約としては有効であるから、町はその履行として交換差金の支払義務を免れず、その履行行為たる右支出をもって違法とは評価できない。

(二) 本件支出命令A、B自体の違法性

(被控訴人らの主張)

仮に町条例の規制を逸脱した議会の議決が違法、無効ではないとしても、本件議決の議事手続においては、本件各交換契約が町条例の規制に反することについては全く審議されていないし、控訴人は、議員が鑑定価格の提示を要求したのにこれを拒む一方、あいまいな答弁に終始して町議会に対し必要な情報を提供しなかったから、本件議決には重大な瑕疵がある。したがって、本件支出命令A、Bは、法二三七条二項の議会の議決に基づかないものであって、違法である。

(控訴人の主張)

控訴人が本件議決の議事手続において鑑定価格の提示を拒んだのは、町では従来からこれを公表しないのが慣例であって、他の普通地方公共団体においてもこれが慣例となっていたからである。これを公表しなければならない法的根拠もない。したがって、右提示を拒んだからといって本件議決に瑕疵があるとはいえない。また、控訴人の答弁があいまいであったことは否めないが、これをもって本件議決に重大な瑕疵があるということはできない。

2  損害額

(被控訴人らの主張)

控訴人は、違法に本件支出命令A、Bを行い、町に対して、右支出命令に係る交換差金合計九六一万六二七〇円の損害を与えた。

第三  争点に対する判断

一  法上、普通地方公共団体における契約締結の権限は長に属するから、財産取得の契約を締結するについても、その対価を現金とするか、普通地方公共団体の財産とするかの選択や、これらの価格を決定することなどは、原則として、長の裁量に委ねられているものと解される。

しかし、右の裁量権は無限定ではない。すなわち、法一三八条の二が、普通地方公共団体の執行機関には事務を誠実に管理執行をする義務があることを定め、地方財政法四条一項も、地方公共団体の経費は目的達成のための必要最少限度を超えて支出してはならないと定めていること、殊に交換については、法二三七条二項が、交換が総計予算主義(法二一〇条)の例外であることのほか、財産の運営上多大の損失を生じさせたり、特定の者の利益のために財産運営が歪められるなど健全な財産運営が期待できなくなることから、「条例又は議会の議決による場合」以外は交換を原則として禁止していること(しかも、法二三四条一、二項は一般競争入札を契約締結の原則的方法としており、交換における価格決定の仕方いかんによっては、これを潜脱することにもなりかねない。)、以上の諸規定に照らすと、裁量権の行使において、交換を選択したことが著しく合理性を欠いているとか、正当な理由もなく、交換の目的財産相互につき、適正価格に比して著しく不均衡な価格決定をしたなどの事情があるときは、長による財産取得の契約締結には裁量権の逸脱又は濫用があったものとして、これを違法と評価すべきものと解する。

二  そこで、本件交換契約A、Bの締結について、裁量権の逸脱又は濫用があったか否かを判断する。

1  証拠(甲二一、二八ないし三二、四三の1、2、乙九、一一ないし一三、一四の1ないし11、一五、原審証人西淨隆志、同福田正、同友枝佑二、同森勢剛、原審における控訴人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 町は、平成二年ころ、国道三号線の西側にあった役場庁舎を町道北側の熊本県から払下げを受けた町有地(熊本県蚕業試験場の跡地)に移転すること、及び右移転に伴う交通混雑の緩和のため、幅員約六メートルの町道を幅員約一六メートルに拡幅することを決定した。そして、新庁舎の落成式は平成三年一〇月一八日に予定されていたが、そのときまでに町道の拡幅工事も終了することが計画された。町担当者は、平成二年六月八日から、右田トシコや友枝ら地権者との間で、道路用地の買収交渉を始めたが、一方、平成三年二月ころには、右の用地取得に先行して、新庁舎の敷地造成工事と、新庁舎前町有地での町道の拡幅工事が始められていた。

(二) 町担当者は、用地交渉にあたって、不動産鑑定士西淨隆志に対し、旧二三八番一(町有地)、旧二二七番一(右田トシコ所有地)、旧二二八番一(右田トシコ所有地)及び旧一三四番四(友枝ら共有地)等の評価を依頼し、同不動産鑑定士は、平成三年三月ころ、鑑定評価書(甲二一)を作成して、これを町担当者に提出した。右鑑定評価書では、標準宅地について、①取引事例比較法による比準価格、②収益還元法による収益価格及び③地価調査地からの規準価格を求め、そのうち最も高額な①の価格を採用して、右の標準宅地の価格に個別修正を加えて、一m2の単価を、旧二三八番一につき四万円、旧二二七番一、旧二二八番一及び旧二三二番三につき四万五三〇〇円、旧一三四番四につき六万九八〇〇円とそれぞれ評価している。

町担当者は、用地交渉の過程で、民間取引事例の推定結果を記載した書面(乙一一)や右鑑定価格を独自に修正した評価書(乙一五)を作成しているが、いずれも、その価格は根拠に乏しいものであって(むしろ、後記の用地交渉の経緯にかんがみると、これらは、適正価格をもとめるためというよりは、専ら、取得地の価格を地権者の主張額に近付けるために作成されたことが窺われる。)、前記鑑定評価書のほかには、適正価格を認めるべき資料は作成されていない。

(三) 町担当者と地権者との用地交渉は、平成三年七月六日の交渉成立まで約一年を要し、交渉回数も約一〇回に及んだが、その経緯と結果は、概ね、次のとおりであった。

すなわち、平成三年二月二六日までに道路用地の範囲が合意され、同年四月二三日までには、地権者からの要求により、提供地(前記(一)の熊本県からの払下地のうち新庁舎敷地西側の部分)との交換を行うことが確定した。そのころから、本格的に価格交渉に入ったが、町担当者が前記(二)の鑑定価格を主張したのに対し、地権者は、これを拒否し、提供地については、熊本県からの払下価格が一万円/m2程度であったことを根拠に(甲三二によると、提供地の平成元年三月一日時点の価格は一万一〇〇〇円/m2と鑑定評価されていることが認められる。)、三万円/m2と主張し、取得地については、実勢価格であることを根拠に、友枝ら共有地を五〇万円/坪(一五万一五一五円/m2)と評価するよう主張した。これに対し、町担当者は、提供地を四万円/m2、取得地のうち友枝ら共有地を三七万円/坪(一一万二一二一円/m2)、右田トシコ所有地を二四万〇一二八円/坪(七万二七六六円/m2)と評価することを主張したが、地権者はこれを拒否した。その結果、本件各交換契約どおりの内容で交渉が成立したが、これによると、提供地は三万円/m2、本件交換契約Aにおける取得地(右田トシコ所有地)は八万二六〇〇円/m2(二七万二五八〇円/坪)、本件交換契約Bにおける取得地(友枝ら共有地)は一二万七二七二円/m2(四二万円/坪)であった。

2  右事実と前記第二・一の事実に基づいて検討する。

本件交換契約A、Bにおける提供地及び取得地の適正価格は、不動産鑑定士西淨隆志が鑑定評価した価格、すなわち、提供地につき四万円/m2、取得地のうち右田トシコ所有地につき四万五三〇〇円/m2、友枝ら共有地につき六万九八〇〇円/m2に近いものであったことが認められる(仮に取得地の適正価格が右鑑定価格より高額であったとすれば、提供地の適正価格も同様の比率で高額になるものと考えられる。)。そうであれば、右の鑑定価格に基づいて本件の交換を行うとすると、右田トシコ所有地に対しては提供地190.20m2(4万5300円×167.95m2÷4万円)を、友枝ら共有地に対しては提供地235.22m2(6万9800円×134.80m2÷4万円)をそれぞれ交換に供すれば足りることになる。ところが、本件交換契約A、Bにおいては、提供地の価格を右鑑定価格より一万円/m2安く、取得地の価格を右鑑定価格の1.82倍に評価し直して、取得地と提供地との価格差を広げ、町有地である提供地の面積を本件交換契約Aにつき317.58m2、本件交換契約Bにつき396.18m2とそれぞれ増加させた上、さらには、交換差金として、本件交換契約Aにつき四三四万五二七〇円を、本件交換契約Bにつき五二七万一〇〇〇円をそれぞれ町が支払うこととしており、右の各交換契約が、交換の目的財産相互につき著しく不均衡な評価をして、一方で地権者に不当な利益を与え、他方で町に不当な損失を被らせるものであることは明らかである。

そして、本件の用地交渉においては、価格の交渉に限れば、その交渉に入った平成三年四月二三日ころから約三か月という短期間で交渉成立に至っており、そこで合意した価格も、必ずしも根拠があるとはいい難い地権者の要求に、概ね、沿うものであった。このように、町担当者が交渉の成立を急いだ理由は、新庁舎の落成式までに町道の拡幅工事を完成させるという要請があったためであるが、住民福祉の観点からすると、新庁舎の完成と町道の拡幅の時期を一致させる必要性がどれほどあったかは疑問である。右の事情に照らすと、本件の用地交渉は拙速の感を否めず、前認定のとおり、本件の用地交渉が町道拡幅を目的としたものであったことや、これが地権者の強行な姿勢により難航したことを勘案しても、なお、交換の目的財産相互につき、前記のような著しく不均衡な価格決定をすることに、正当の理由があったものと認めることはできない。

以上によると、控訴人が本件交換契約A、Bを締結したことは、その裁量権を逸脱又は濫用した違法な行為というべきであって、これに基づいて控訴人の行った本件支出命令A、Bもまた違法である。

三  控訴人は、本件議決によって、本件交換契約A、Bの違法性は治癒されたと主張する。しかしながら、法九六条一項六号に定める議会の議決は、普通地方公共団体の長の契約締結行為についての同意ないし許可の性質を有するものと解するのが相当であるから、議会の議決があったからといって、違法な契約締結行為が適法となるものではない。したがって、本件議決によって本件交換契約A、Bの違法性が治癒されることはないから、右主張は失当である。

また、控訴人は、本件交換契約A、Bは私法上の契約としては有効であるから、その履行行為たる交換差金の支出をもって違法とは評価できないと主張する。しかしながら、本件支出命令A、Bが違法であるというのは、普通地方公共団体たる町に対する関係で違法ということであるから、仮に、本件交換契約A、Bが私法上有効であって、その履行行為が右契約の相手方との関係では適法であるとしても、本件支出命令A、Bの違法性を認める妨げにはならない。したがって、右主張は失当である。

四  証拠(原審における控訴人)によれば、控訴人は本件の用地交渉につき町担当者から経過報告を受け、その内容も知悉していたことが認められ、右事実によると、控訴人には違法な本件支出命令A、Bを行うについて故意又は過失があったものと認められる。そうすると、控訴人は本件支出命令A、Bを行ったことについて不法行為責任を負うべきところ、右行為と相当因果関係にある町の損害は、町が右田トシコ及び友枝らに支払った交換差金合計九六一万六二七〇円の全額相当額と認められるから、控訴人には、町に対して、右同額の損害賠償義務がある。

第四  結論

よって、被控訴人らの本訴請求は正当として認容すべきであるから、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 川久保政德 裁判官 池谷泉は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 下方元子)

別紙<省略>

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